統合失調症臨床の経験 心の平和をめぐって
患者の心の奥に閉ざされている孤独感、空虚感、絶望感、寂蓼感―
それらを、わずかでも保護してくれるパートナーの存在によって、統合失調症の経過は少なからず変わり得るのではないだろうか。(本文より)
穏やかな情緒的交流と信用関係、細やかな身体観察を通して患者の心身を理解し、「心の平和」を問い続ける臨床のあり方を、実例を通して浮き彫りにしていく。
四六判(128×188ミリ)
204頁
定価 (本体2500円+税)
ISBN 978-4904380932 C3047
2020年5月27日発行
本書の特徴
1.回復(寛解)過程論(中井久夫)の数少ない臨床実践が実例で分かる
2.精神医療の歴史的考察を通し、望ましい治療環境・治療関係が分かる
3.身体に現われる「心のしるし」を読み解くことで回復過程が分かる
4.上記により、特別な才能がなくても、〈いま・ここ〉からできる支援のポイントが見つかる
著者
工藤 潤一郎 (くどう じゅんいちろう)
精神保健指定医、医学博士。1961年に東京都で生まれ鎌倉市で育つ。1987年に名古屋大学医学部を卒業。東京大学医学部附属病院分院神経科で研修後、名古屋大学精神医学教室に入局。
その後、国立療養所東尾張病院医長、青山会青木病院診療部長、湘南鎌倉総合病院精神科部長を歴任。この間、東京大学保健センターと日本女子大学カウンセリングセンターで学生相談、新宿区落合保健センターで
著書に『分裂病の精神病理と治療』八巻(共著、星和書店)、『精神分裂病臨床と病理』1~3巻(共著、人文書院)など。
まえがき(本文より抜粋)
私が今までに書いてきた論文やエッセイを書き直して一冊の本にすることにしました。
それぞれを発表した時期は二〇年以上前から数年前とさまざまですが、私が臨床で悩み考えてきたことを私なりに努力して書きました。
二〇世紀を代表する統合失調症の臨床家であったスイスの精神科医、マンフレット・ブロイラー(一九〇三年~一九九四年)は「患者さんのそばで過ごそう」と提唱しましたが、この提唱のとおりに統合失調症の臨床においては、患者さんがどのように生きてきたのか、どのような境遇にあってどのような苦労をしてきたのか、また、その中でも小さな楽しみを持っているのかなどを想像しながら接していく姿勢が最も大切なことであると思 います。患者さんの苦労は本当に多大ですが、本書においてそれをわずかでも表現できていればと思います。
表紙にさせていただいた絵は、一〇数年前に新宿区落合のカフェ&作業所で購入しました。心の平和が静かに描かれていると思います。
目次
まえがき
第一部 精神科病院の臨床
第一章 見逃されやすい症状
統合失調症で見逃されやすい症状
ある患者に認められた眼症状-潜在性斜視-
第二章 心の平和
第三章 患者が抱える寂しさ
第四章 中年期・老年期を迎えた患者
初老期に寛解した患者
中年期に再発を繰り返した患者
第二部 精神医療の今までとこれから
第五章 精神科病院の臨床
第六章 長期入院の患者とその臨床
第七章 クリニックで精神科医療を考える
編集後記
付録 年表 立法一二〇史 初出一覧