デザインから考える障害者福祉 ―ミシンと砂時計―
「すでにデザインされた世界と、いまだデザインされていない世界がある」
障害者とその家族・地域とのかかわり、作業空間と時間、道具、組織・・・著者自らが、「障害者と働く現場」の声を拾い上げ、「実践的な論理」を記述していく。
不可能と思われていたことを可能にしたデザインとは?共生社会の実現を目指すこれからの障害者雇用、教育、社会福祉を志す人、必読の書。
A5判(148×210ミリ)
250頁
定価 (本体1800円+税)
ISBN 978-4904380901 C0036
2020年4月15日発行
著者
海老田 大五朗(えびた だいごろう)
1975年宮城県仙台市生まれ。成城大学大学院文学研究科コミュニケーション学専攻博士課程後期単位取得退学、博士(文学)。現職は、新潟青陵大学福祉心理学部臨床心理学科准教授。専攻はエスノメソドロジー、保健医療社会学。
主な著書に『概念分析の社会学2―実践の社会的論理』(共著、ナカニシヤ出版、2016年)、『ワークプレイス・スタディーズ―はたらくことのエスノメソドロジー』(共著、ハーベスト社、2017年)、『コミュニティビジネスで拓く地域と福祉』(共編著、ナカニシヤ出版、2018年)、『柔道整復の社会学的記述』(勁草書房、2018年)など。
はじめに(本文より抜粋)
本書で試みること
1.日本理化学工業のデザイン
工場には大きな砂時計がいくつも置いてある。文字盤が読めない彼らのために、この砂時計が使われているのだ。
「原料の混錬では同じ品質を保つために一定の時間でミキサーを動かさなければなりませんが、時計が読めない社員も多い。
そこで、時計が読めなくても正確な時間を計れるよう砂時計を用いました。混錬の機械のスイッチを入れたらまず砂時計をひっくり返し、砂が落ちたらそのスイッチを切る。どんな社員でも間違えることがなくなりました」
日本理化学工業は、日本のトップシェアを誇るチョーク会社である。この会社を有名にしたのは、障害者雇用を通じてであるといってよいだろう。
― 中略 ―
この日本理化学工業には数多くのドラマがある。そのなかでも筆者が注目したのは、「材料を練る時間を計るときに、時計の代わりに砂時計を使用する」というような話、つまり作業や道具のデザインについての話である。日本理化学工業では、知的障害者たちの理解力に合わせて作業環境を設計することで、知的に障害がある者が従事したとしても、ある特定の作業が可能になるように作業工程が設計されている。
このような話からシンプルに導けることの一つは、「障害者が働けるか働けないかは、工夫や設計次第、つまりデザイン次第である」ということだ。
2.デザインの力
3.障害者福祉の問題群
4.本書の構成
5.本書の想定読者
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目次
はじめに 本書で試みること
序章 何をどのように記述できればデザインを記述したことになるのか
第1部 ワークプレイスのデザイン
1章 作業と組織のデザイン
~知的障害者の一般就労を可能にした方法の記述~
2章 協働実践と道具のデザイン
~障害者が使えるミシンはどのようにデザインされたか~
3章 労働時間のデザイン
~固定された世界を解きほぐす~
第2部 関係のデザイン
4章 地域との関係をデザインする
~精神障害者の移行支援はどのようにして可能になったか~
5章 家族との関係をデザインする
~映画「万引き家族」を手がかりに~
コラム映画「万引き家族」とパルマコン
6章 障害者本人との関係をデザインする
~実践のなかの意思決定支援~
終章 まとめ
補論 ゆがんだ麦を植える人たち 今井優美
あとがきと謝辞