精神障害とともに
精神障害者の実状を密着取材し、共生社会への道を探る
日本医学ジャーナリスト協会賞大賞受賞連載、待望の書籍化
戦後、精神疾患患者の地域生活移行が進んだ欧米諸国に比べて、日本は逆行し、精神病院に収容する政策を進めてきた。近年、地域生活中心にシフトする方針へと大きく舵が切られたが、精神障害に対する社会の理解はまだ不十分で、地域で患者を支える体制が整っておらず、長期入院患者の退院は進まない現状にある。
そんな日本の中でも、鹿児島県は人口に対する精神病床数、入院患者数、入院日数がいずれも高い割合にある。「精神障害を取り巻く問題は鹿児島の報道機関こそ取り組むテーマ」という問題意識のもと、鹿児島の新聞社が、精神障害者の実状を知るために病院・暮らし・就労などの現場を密着取材し、社会的偏見の解消を目指した記事を連載した。記事には精神疾患を抱える多くの方々が実名と写真を出して協力し、大きな共感と反響を呼んだ。
その南日本新聞社の連載「精神障害とともに」が2017年度日本医学ジャーナリスト協会賞大賞(新聞・雑誌部門)を受賞し、今回、待望の書籍化を果たした。
A5並製(148×210ミリ)
300頁
定価 (本体1400円+税)
ISBN 978-4-904380-70-3 C0036
2017年12月24日発行
著 者
南日本新聞取材班
豊島 浩一(取材班キャップ)
三宅 太郎
吉松 晃子
右田 雄二
はじめに―共生社会、探る旅へ(本文より)
精神障害者が増えている。
国は2011年、がん、脳卒中、急性心筋梗塞、糖尿病の4大疾病に新たに「精神疾患」を加え、5大疾病として対策を強化している。
14年の全国調査で、精神疾患患者は392万人を超えた。
5大疾病の中で最も多く、今や国民病とも言える。
精神疾患には、統合失調症、うつ病や双極性障害(そううつ病)といった気分障害、アルコールなどの依存症、てんかん、認知症が含まれる。中でも職場でのうつ病や高齢化に伴う認知症が増加している。
日本は欧米諸国と比べ、精神科のベッド数が多く入院期間が長い。地域で患者を支える体制整備が遅れていることが背景にある。
国は04年、「入院医療中心から地域生活中心へ」の流れを加速させる改革ビジョンを打ち出したが、長期入院患者らの退院はなかなか進まない。
精神科のベッド数は1950年代から70年代にかけて飛躍的に増えた。国が民間の精神科病院の設置を後押ししたためで、患者の隔離、収容が進んだ。
そうした国の施策は正しかったのか。
入院に大きく依存する精神医療について、ハンセン病問題のように国の責任を問う国家賠償請求訴訟を起こそうという動きもある。
そんな国内にあって、人口に対するベッド数、入院患者数、20年以上の長期入院患者数が最も多いのが、鹿児島だ。
(略)
精神疾患は4人に1人は一生に一度経験するとされる身近な病気だ。
誰しも精神障害者になる可能性がある。もしそうなっても、地域で暮らせる、働く場所を得られる共生社会づくりが求められている。
16年4月、役所や事業者に対し障害を理由とした差別的な取り扱いを禁じた障害者差別解消法が施行された。
18年4月には、精神障害者の雇用を促す改正障害者雇用促進法が施行される。
しかし、われわれは今、精神障害のことをどれだけ理解しているだろうか。
偏見や先入観を超え、共生社会を探る旅に出よう。
(略)
目 次
はじめに―共生社会、探る旅へ
第1部 闇と光の日々
①心の病 ②自死遺族 ③発症 ④再生 ⑤長期入院
⑥社会復帰 ⑦断酒40年 ⑧家族の願い
第2部 精神科密着240時間
①保護入院 ②救急病棟 ③看護 ④施設介護困難
⑤身体拘束 ⑥電気けいれん療法 ⑦治療多様化 ⑧精神鑑定
⑨医療観察法病棟 ⑩超長期入院 ⑪退院の壁
⑫ピアサポーター ⑬隣接地に退院 ⑭変わる施設 ⑮変容
第3部 100年の記憶
①提訴の動き ②私宅監置 ③県内初病院 ④ブーム
⑤収容 ⑥荒療治 ⑦患者作業 ⑧続いた虐待
⑨地域への一歩 ⑩新世紀