権力に対峙した男 ―新・西郷隆盛研究― 上巻
権力に対峙した男「西郷隆盛」の真実に迫る
2018年の大河ドラマ「西郷どん」の主人公でもある明治維新の英傑・西郷隆盛。
これまで何冊もの小説・研究が彼を題材に取り上げ、維新150年を迎える現在でも多くの人々から慕われてやまない。
著者は明治から昭和初期に至るまでの西郷隆盛関連の書籍・史料を丹念に読み解き、埋もれていた西郷の実像に迫ってゆく。
征韓論決裂の閣議の具体的経過、西南戦争発端の真相、それらを通して見える竹馬の友・大久保利通との関係、さらに上野と鹿児島の西郷銅像建立秘話など、そこに見えてきたのは勝者が伝える歴史とは異なる西郷像であった。
西郷と直接かかわりのあったさまざまな人物の証言も紹介し、歴史の真実と人間・西郷隆盛の姿を浮き彫りにする。
四六判(128×188ミリ)
296頁
定価 (本体2200円+税)
ISBN 978-4-904380-65-9 C0021
2017年9月16日発行
著 者
米村 秀司
1949年生まれ。1971年3月、同志社大学卒。1971年4月、KTS鹿児島テレビ放送入社。報道部長、編成業務局長、企画開発局長などを経て現在、鹿児島シティエフエム代表取締役社長。
【主な著書等】
「テレビ対談・さつま八面鏡」(鹿児島テレビ放送(編・著)、1979年10月)
「欽ちゃんの全日本仮装大賞」(日本テレビ放送網(共・編)、1983年9月)
「博学紀行・鹿児島県」(福武書店(共著)、1983年11月)
「スペインと日本」(行路社(共著)、2000年3月)
「消えた学院」(ラグーナ出版、2011年7月)
「ラジオは君を救ったか?」(ラグーナ出版、2012年6月)
「岐路に立つラジオ」(ラグーナ出版、2015年5月)
「そのときラジオは何を伝えたか」(ラグーナ出版、2016年9月)
まえがき(本文より)
二〇一八年のNHK大河ドラマが西郷隆盛に決まった。昔読んだ司馬遼太郎の大作『翔ぶが如く』を再び読み返してみた。
『翔ぶが如く』は、明治の薩摩人の世界を多角的に描きながら、「国家のあり方」や「人間の生き方」を問う作品だ。
明治維新の立役者、西郷隆盛の人生観、これに対して西郷と竹馬の友だった大久保利通の離反、薩摩閥と長州閥の主導権をめぐる駆け引きなど、司馬氏が展開する史実の積み重ねは説得力があり、引き込まれる。
司馬氏は何を根拠に西郷や大久保を描いたのだろうか。
私は、西郷研究の第一人者、海音寺潮五郎や司馬遼太郎の取材源を探し始めた。
西南戦争や西郷隆盛関連のいわゆる西郷本は、少なくとも千冊以上発行されているといわれている。
明治初期、西郷が鹿児島の城山で自刃する前から西郷本は出版されていた。そして西郷の死後、西郷が賊人としての汚名を消され、正三位として復権した明治二十六年以降、まさに西郷の復権を待っていたかのように多くの西郷本が発行された。
さらに、明治から昭和初期にかけて出版された雑誌には、西郷と直接接触した板垣退助や大隈重信など多くの要人が、西郷の人物像について具体的な史実や会話を交えながら生々しく語っている。
海音寺潮五郎や司馬遼太郎など多くの西郷研究家は、これらの証言と史実をもとに、西郷隆盛や明治という時代を描いている。このため近年出版されている西郷本は、海音寺氏や司馬氏の作品を底本として書かれているものが多い。
私はまず、明治から昭和初期にかけて出版された西郷本や雑誌を読むことから「西郷隆盛研究」を始めた。そこには京都祇園での西郷像や江戸城開城後の西郷の日常など、これまで発掘されていなかった証言が多く残されていた。
「国家のあり方」と「人間の生き方」。この二つを交錯させる西郷隆盛の人生観や死生観を研究するにはあまりにも奥が深い。
だからこそ、多くの西郷本が今も出版されているのだろう。
本書は、人間西郷隆盛の一面を知る手助けとなればと思い、上梓した。
目 次
まえがき
第一章 勝者が語り継ぐ歴史と原資料
第一話 西郷隆盛暗殺未遂事件
第二話 異なる口供書(供述書)
第三話 原資料(底本)を探す
第四話 福沢諭吉(慶応義塾)と大隈重信(早稲田)の西郷観
第二章 征韓論の真相と二人の関係
第五話 征韓論の舞台裏
第六話 決裂の閣議を再現
第七話 大久保は西郷を招かず
第八話 鹿児島残留の士族は質素、東京派遣の士族は驕奢
第三章 西郷を見た人の証言
第九話 証言 西郷隆盛の実像を追う
第四章 挑発から私闘へ
第十話 私学校の運営資金
第十一話 西郷と大久保の私闘
第五章 銅像建立へ
第十二話 上野の西郷銅像建立秘話
第十三話 西郷銅像(鹿児島)除幕式
資料
用語解説
参考文献一覧